山口県防府市にある私立の中高一貫校です。

学校法人山口高川学園 高川学園中学校・高等学校

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高等学校

人権学習講演会

9月3日(水)5、6時間目に人権学習講演会がありました。講師の山口被害者支援センター支援員の中谷加代子さんから「命といじめを考える」というテーマでお話しいただきました。人権とは、言葉で表すと、人が人らしく生きる権利、全ての人が幸せになれる権利、誰もが生まれながらに持つ権利です。
たくさんの人権問題がありますが、その中でも特にいのちについて話をしたいと思います。
私は20歳の娘を亡くした母親です。親の気持ちを理解するのは高校生のみなさんには難しいかもしれません。でももしあなたたちに何かがあったら、親はとても悲しい気持ちになります。殺人と聞くと、自分とは関係ない遠い話のように聞こえますね。しかし、いじめと聞くと、身近な感じがしますね。では、いじめとはどんなものなのか、一言で表すと「心と体に対する暴力」と言えると思います。いじめはその人の生きる力を奪うものになります。実際にいじめが原因でいのちを断つ人がいます。
私の体験談を話しますが、聞いているうちに辛くなるかもしれません。辛くなったら無理をしないでください。それでも皆さんに伝えたいことがあるので、一生懸命話します。私の話はあくまでも、一人の被害者の話だと思ってください。
娘の名前は歩といいます。私の家族は4人、夫婦と息子、妹の歩です。歩は1986年6月に生まれた待望の女の子です。小さい頃は引っ込み思案でしたが、たくましく成長して徳山高専に進学しました。私の母は57歳で、ガンで亡くなりましたが、母は明るい人だったので亡くなってから、実家は火が消えたようになりました。私達夫婦は共稼ぎだったので忙しくしていましたが、家族が笑顔で暮らすことが幸せだと思っていました。19年前、娘は夏休みが終わる直前、5年生の同級生の男の子に絞殺されました。8月28日、元気に手を振って登校しました。夕方私の机には、お父さんの書き置きがありました。
「歩が倒れたらしいから学校に行ってくる」
学校に行ったお父さんから歩が死んだらしいと聞かされました。
テレビの画面には「高専」「中谷歩」「死亡」という文字が並びました。到底現実の話だと思えませんでした。歩に会うために警察署に行かなければならず、家を出るとマスコミが自宅の前に集まっていました。警察署では色々なことを質問されましたが、現状を受け入れることができず、死んだのは決して歩のはずはないとずっと思っていました。警察署のある建物に入ると、大きなビニール袋が置いてあり、その中に歩がいました。起こそうと声をかけましたが、反応がありませんでした。頬にふれましたが、弾力がありました。最後に触れた娘の感触を忘れたくないと思うのですが、時間が経つと忘れてしまう自分に歯がゆい思いをしています。警察署からの帰りは土砂降りで、歩の怒りの雨のようでした。
家族思いの可愛い娘、高専卒業後は熊本の大学に編入することが決まっていて、将来が楽しみな娘でした。帰宅すると家の周りをマスコミが取り囲み、日常生活が脅かされる状況でした。死亡届はお父さんが書きましたが、手が震えてなかなか書けず、憤りを口にしていました。火葬される娘を見てとても後悔しました。事故に遭ったのが自分のせいだったのでは、娘は死んでいるのに自分自身が生きている、なぜ殺されるのか、様々な思いがめぐりました。
娘は、犯行の前日、加害者と連絡を取り合っており、学校で会う約束をしていました。娘は1人で研究室に行きました。パソコンに向かっている後ろから同級生に手で首を絞められて、その後ビニール紐で何十にも巻かれて絞められ、強姦されて殺されました。犯人は研究室の鍵を締めて逃げていました。翌日、容疑者は指名手配されましたが公開捜査はされず、19歳少年とだけ報道されました。公開捜査に踏み切ってほしいと思っていた矢先、指名手配の少年は首を吊って自殺しました。加害者の死という結末に、事件について知りたい聞きたいという私の願いは何一つ叶いませんでした。
強姦致死という罪名でした。被疑者死亡で不起訴処分となり、刑事裁判はありませんでした。
徳山高専の校長先生は「歩さんを守ってあげられずすみませんでした。」と謝罪してくださいました。先生や生徒の精神的ダメージは大きく、長い間カウンセリングが行われました。その後学校は事件再発防止のために、様々な対応をされました。お寺の住職は、私たちの心が落ち着く言葉をかけてくださいました。大勢の人がそばにいてくれて今があると思います。しかし残念ながら、被害者の私たちに売名行為だと言う人がいて、二次被害もありました。加害者の両親から事件後1年半経って連絡がありました。ご両親はとても憔悴されていました。加害者の親もまた被害者なのではないかと思いました。
1度失った命は戻ってこないけれど、償う方法があるとすれば、残された人間がどのように生きるのかをしっかり考えてほしいと思います。歩の将来の夢は建築士でした。歩の友達は結婚、出産してしています。でも、私の中の娘は20歳のままです。どうしてこんな事件が起きたのか、と今になっても考えてしまいます。
加害者に何でも話せる友人がいたら、親が少しの変化でも気付いてくれていたら、そしてもし、彼が生きることを真剣に考えていたら・・・もし彼が周りの人を大切に考えていたら・・・と考えます。
命の授業がもっと行われていたら、このような事件は起きなかったのではないかと思います。

実体験に基づく話は、自分の記憶をたどって話すので、とても辛いことだと思います。中高生の為にいのちの大切さを伝えることは、有意義ですが活動されている方は、とても大変なことだと思います。今回は、貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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